あなたは今、利益計画の立て方についてお調べのことと思います。
利益計画とは簡単にいうと、あなたの事業における「売上高」と「費用」そして「利益」の目標について計画を立てたものです。
事業を計画する段階で利益計画を作成すると、まずその事業をやるべきなのか、その事業の将来性などが計れます。
事業をはじめてから利益計画を作成すると、常に会社の利益の把握ができますから、会社が発展的な事業展開をしたい時にも、すぐに動き出せる良い状態が保たれます。
利益計画は、「これこそ経営者の仕事」ともいうべきものであり、いい会社をつくるためには絶対に欠かせないものとなります。
この表をみて、金融機関はあなたにお金を貸してきちんと返済してもらえるかを判断します。
もし、利益計画を立てるくせがついていれば、金融機関と今までよりもスムーズに付き合えるようになるでしょう。
また、金融機関からお金を借りる予定はなくても、あなたの考えている事業を軌道にのせるためにも、創業期には重要な書類となりますので、作成しておくことをオススメします。
利益計画の作成にはいくつかポイントがあり、それを押さえずに作成すると、根拠が薄く具体性のないものになります。
ここでは、初めて利益計画を作成される方に向けて、具体的な考え方と作成のステップをわかりやすくお話ししています。
ぜひ参考にしてください。
もくじ
0.利益計画とは将来の「目標利益」を明確にし、達成するための計画を練ること
1.[利益計画作成ステップ1]固定費の洗い出し
1-1.役員報酬(個人の場合は生活費)
1-2.人件費(アルバイト代などの雇用に係る費用)
1-3.家賃
1-4.広告費
1-5.業種ごとに大きくかかる費用
1-6.その他の費用
1-7.減価償却費(げんかしょうきゃくひ)
2.[利益計画作成ステップ2]借入金と利息を考える
3.[利益計画作成ステップ3]自分の業界の粗利率を探し出す
4.[利益計画作成ステップ4]最低限必要な売上高を割り出す
5.[利益計画作成ステップ5]売上根拠を考える
5-1.[現金商売の場合]客単価×座席数×回転数
5-2.[現金商売の場合]標準月、閑散月、繁忙月の3つに分けて作成
5-3.[実店舗を持つ商売の場合]商圏の人口×入店の割合×客単価
5-4.[その他商売の場合]商品別・販売方法ごとに売上根拠を考える
6.[利益計画作成ステップ6]実際に利益計画書に落とし込む
7.[利益計画作成ステップ7]最低限必要な売上高をクリアできない場合の計画の見直し方
7-1.業界における黒字企業の黄金比率と見比べてみる
7-2.変動費、固定費を見直す
7-2-1.変動費の見直しのポイント
7-2-2.固定費の見直しのポイント
8.[利益計画作成ステップ8]番外編
8-1.売上根拠を考えるときには、見知らぬ人より見知った人から考える
8-2.ビジネスモデルは「アッパーニッチ」を狙い、「薄利多売」はできるだけ避ける
8-3.継続的に利益を出し続けられるビジネスモデルを考える
8-4.自社だけのオリジナリティを出す
(参考)利益計画書と損益計算書、収支計算書の違い
0.利益計画とは将来の「目標利益」を明確にし、達成するための計画を練ること
利益計画の作成ステップの前に、まずは利益計画とはどんなものなのかを押さえておく必要があります。
利益計画とは、将来の「目標利益」を明確にし、達成するための数値計画を練ることを言います。
「目標利益」と言っていますが、ひとことに「利益」と言っても、実は利益はひとつではありません。
利益計画には3つの利益が存在します。
【利益計画書の3つの利益】
・粗利益(あらりえき)
売上高から変動費(仕入れ・材料費・外注費なと)を引いた利益のことをさします。
売上高と比例して、変動費も増えていきます。
ビジネスモデルを考えるにあたって、まず大切なのは「粗利益」です。
経営者が本当に考えるべきは、売上よりも「毎月の粗利益がどの程度残るか」を常に意識することです。
なぜ粗利益が大事なのかというと、粗利益からすべての経費支払いが行われるからです。
つまり、粗利益の金額以上に経費を使わなければ毎月少しずつでもお金は会社に残ります。
逆に粗利益が少ないビジネスモデルは、それだけ資金繰りリスクが高いということになります。
・営業利益
売上から変動費と経費(家賃や人件費、広告費など)を引いた利益のことをさします。
粗利益から、経費を引いて残った利益が営業利益です。
会社が本業で稼いだ利益を表します。
本業でどれだけ稼げるかを表したものですから、金融機関は営業利益も重要視しています。
営業利益がマイナスになるようなら、経費の見直しをすることで、利益を出すことができます。
・経常利益(けいじょうりえき)
営業利益から、借入金の利息支払いなどを引いたものが経常利益です。
本業で稼いでも、借入利息が大きいと経常利益はマイナスになります。
上記のようにひとことに「利益」と言っても、計画を立てる上では3つの利益があり、経営者であれば最低限この3つの利益はしっかり把握してください。
決して「もう知ってるよ」で終わらせてはダメです。
なぜなら、これがわかっていないと、「売上はどんどん伸びているのにいつも利益が残らない」という状態になった時に、どこが原因なのかを把握することができないからです。
例えば営業利益がマイナスなら変動費か固定費に原因がありますし、経常利益がマイナスなら借入利息の支払い金額が原因です。
経営者のあなたの仕事のひとつは、利益を最大限に出すことにあります。
私がみた多くの経営者は、「粗利益がこれだけ出ているんだから」とどんぶり勘定になっていることが多いです。
そういう経営では、いつも利益が残らず「何でだろう」と頭を抱えながら、資金繰りに追われることになります。
だからこそ、経営者は最低限、この3つの利益をしっかりと把握してください。
具体的に、目標利益を達成するためには、どれくらいの費用(変動費・固定費)がかかり、そのためにはどれくらいの売上高を確保すればよいのかを検討します。
・目標利益…その事業で目標とするべき将来の利益。計算式は、必要売上高ー費用(変動費と固定費)
・必要売上高…その目標利益を達成するために最低限必要な売上高
・変動費…売上に比例して発生する費用のこと。主なものに、仕入れ、材料費、外注費などがある。
・固定費…事業を行うにおいて、売上の上下とは関係なく、毎月固定でかかる費用のこと
利益計画の作成ステップはこのあとお話ししますが、どの利益がどれくらい残るのか、また残すためにはどうすれば良いのかを考えながら作成しましょう。
1.[利益計画作成ステップ1] 固定費の洗い出し
利益計画作成ステップその1は、固定費の洗い出しです。
・固定費…事業を行うにおいて、売上の上下とは関係なく、毎月固定でかかる費用のこと
まず利益計画を作成する手順として、最初は売上ではなく、固定費から考えます。
なぜなら、固定費はたとえ売上がゼロであったとしても絶対に支払わなければならない支出であり、この金額を下回るような売上の場合は、それはすでにビジネスモデルとして成り立っていないからです。
利益計画の作成において、重要となる主な固定費は以下になります。
1-1.役員報酬(個人の場合は生活費)
まずは役員報酬(個人の場合はあなたの生活費)です。
役員報酬の設定は、費用の中でも特に重要なポイントです。
なぜなら、役員報酬は、最初に一度金額を決めると、その期(次の決算後の株主総会まで)は、金額を固定しなければならないからです。(個人の場合はありません)
つまり、最初は手堅い金額をもらい、年度末に利益が出たらたくさん貰おう、ということはできない、ということです。
役員報酬の場合は、毎月一定額の数値を収支計画書にも記入しましょう。
役員報酬については「役員報酬を決める時に必ず知っておきたい6つのポイント」をご覧ください。
1-2.人件費(アルバイト代などの雇用に係る費用)
人を雇う予定がある場合は、アルバイト代などの人件費を計上します。
時給いくら、1日何時間、月何日働くかを計算した上で、具体的な数値を記入しましょう。
1-3.家賃
店舗を借りる場合は、家賃を計上します。
飲食店や美容院、整骨院など開店前に内装工事が必要な場合は、売上の1〜2ヶ月前から家賃の計上が必要です。
自宅兼事務所の場合、事業として使用している部分は家賃として計上出来ます。
賃貸の場合は面積按分(事業に使用している面積の割合で計上)、持ち家の場合は近隣相場価格と比較して計上します。
(※法人から家賃をもらう場合は、不動産所得の確定申告が必要になります)
1-4.広告費
チラシやネット広告など、広告費が毎月かかる場合には計上します。
1-5.業種ごとに大きくかかる費用
その他、業種ごとにそれぞれ大きくかかる費用は変わってきます。
ネット通販なら「発送費」、飲食店なら「水道光熱費」、フランチャイズ加盟店なら「ライセンス料」などです。
主な費用
- 発送運送費…ネット通販業などは大きくかかります
- 水道光熱費…飲食店、美容院などは大きくかかります
- 通信費…テレアポなど電話をかけることが多い業種
- ライセンス料…フランチャイズ加盟店
- 備品消耗品…仕入れではなく、会社で使用するもの
- 保険料
- 旅費交通費…電車、バス、タクシー、ガソリン代
- 通信費…電話代、切手、レターパックの購入費用
- 接待交際費…お得意様との接待費
- 図書研究費…書籍、セミナー参加費用
- 支払手数料…税理士などへの顧問料
1-6.その他の費用
上記以外の細々した費用は、「その他費用」としてまとめて計上します。
利益計画では、細かすぎる費用(たとえば自分で使う文房具など)の計上は、表が見にくくなってしまうため、避けたほうがいいでしょう。
大事なことは、大きな費用がどれくらいかかるかを把握することですから、その点を押さえて作成します。
1-7.減価償却費(げんかしょうきゃくひ)
上記6つの費用とは少し違う費用が減価償却費です。
・減価償却費…金額の高い電化製品(パソコンなど)や機械設備、内装設備などの購入代金を、購入した年にいっぺんに経費として計上するのではなく、分割して1年ずつ計上すること
例えば、飲食店の機械設備が総額で100万円かかったとします。
この場合、100万円を初年度に一括で経費として計上するのではなく、その購入代金の全額をいったん会社の“資産”として計上し、その金額を“耐用年数”にわたって規則的に費用(経費)に振り替えます。
用語説明
- 資産…会社が所有する財産のこと。建物や機械設備は“固定資産”という
- 費用…企業活動によって発生したコスト。税金を減らす効果があります
- 耐用年数…資産が利用に耐える年数。寿命のようなもの。新車なら6年など
この場合は、購入した年に100万円をいったん資産として計上し、毎年度末に20万円ずつ5年間、減価償却費として費用計上します。
(毎年、資産は20万円ずつ費用に振り替えられて減っていくことになります)
実際にはもう少し複雑なのですが、ここでは減価償却費とはそういうものと覚えておいてください。
詳しくは「【減価償却費】素人でも完全マスター5つのポイント」をご覧ください。
2.[利益計画作成ステップ2]借入金と利息を考える
金融機関からの融資(借入金)を検討している場合は、借入金と支払利息がいくらになるか考えます。
まだ融資される額が決まっていない創業期の場合は、自己資金(開業にあたって貯めたお金)の2倍程度を目安と考えるのが良いでしょう。
詳しくは「【起業融資】いいスタートを切る起業家が成功させる融資のコツ」をご覧ください。
利息の設定は、最近では金利がどんどん下がってはいますが、2~3%くらいに設定しておくのが良いでしょう。
ここではあまり、大きな融資を受ける前提で計画書を立てないほうが無難です。
大きな融資はその分利息負担も大きいですし、大きな融資なしに事業が成り立たないとすれば、それはビジネスモデル自体が甘いと考えたほうが良いです。
融資は、事業を軌道に乗るまでの運転資金であったり、大きな売上が入金されるまでのつなぎである場合はよいですが、当面の生活資金を捻出するための融資はおりません。
融資なしには生活が成り立たないのであれば、ビジネスモデルから考え直したほうがよいでしょう。
※中小企業であっても、大企業に負けない「いい会社」を作りたい方はこちら
3.[利益計画作成ステップ3]自分の業界の粗利率を探し出す
ステップ3は自分の業界の粗利率(あらりりつ)がいくらなのかを探し出します。
これは、ステップ4で最低限、毎月必要な売上高を割り出すのに必要な数字です。
・粗利益(限界利益)…売上高から変動費を引いたもの。粗利率を出すときは100%―変動費率
・変動費(売上原価)…売上に比例して発生する費用のこと。主なものに、仕入れ、材料費、外注費などがある。
もし自分の業界の変動費率がいくらなのか知っている場合はそれを利用します。
わからない場合は、以下のリストから自分の事業に似た業界の変動費率を探して当てはめます。
ここでは、イタリア料理店を参考にします。
・イタリア料理店の変動費…30%(表では売上原価と記載されています)
【変動費率30%のイタリア料理店の例】
・売上100万円…変動費(仕入)30万円
・売上200万円…変動費(仕入)60万円
・売上300万円…変動費(仕入)90万円
このように、変動費は売上が上がるのと比例して上がっていきます。
反対に、売上が下がれば変動費も下がります。
イタリア料理店の粗利率(表では限界利益と記載されています)は、70%です。
4.[利益計画作成ステップ4]最低限必要な売上高を割り出す
ステップ1で固定費、ステップ2で返済利息を考え、ステップ3で粗利率を探し出したら、ステップ4ではそれらを用いて最低限必要な売上高を割り出します。
計算式は以下の通りです。
・(固定費+返済金・利息)÷粗利率=最低限必要な売上高
(例)イタリア料理店の場合
・ステップ1.固定費…90万円
・ステップ2.返済金と利息…10万円
・ステップ3.粗利率…70%
イタリア料理店の最低限必要な売上高
(90万円+10万円)÷70%=142万円
イタリア料理店の最低限必要な損益構成
・売上高…142万円
・変動費(仕入)…42万円(142万円×30%)
・固定費(給与や家賃など)…90万円
・借入返済と利息…10万円
・手持ち現金…ゼロ
上記を見てわかるとおり、手持ち現金がゼロになる、毎月最低限必要な売上高は142万円ということになりました。
利益計画を考えるときには、最低限この142万円が現実的に可能な数値なのかを考える必要があります。
毎月最低限必要な売上高をクリアできるような「売上根拠」を示さなくてはなりません。
ただ、手持ち現金がゼロになると、納税資金や来期の運転資金もないことになりますので、これらを考慮するとまだ足りないことは覚えておいてください。
5.[利益計画作成ステップ5]売上根拠を考える
1〜4までのステップで、最低限必要な売上高の割り出し方がわかりました。
ステップ5では、この売上高を最低限クリアできるだけの売上根拠を考える必要があります。
この売上根拠がどれだけ現実的で実現可能かが、その事業が成功するカギと言えます。
「たぶん大丈夫だろう」「これくらいいくといいな」ではなく、根拠が大切です。
考え方は以下の通りです。
5-1.[現金商売の場合]客単価×座席数×回転数
飲食店、美容室、整骨院などのいわゆる「現金商売」の場合は、1人あたりの客単価×座席数×回転数を考えます。
・客単価
1人のお客様が1回のお会計でどれだけのお支払いがあるかの平均値です。
例えば、飲食店だとランチなのかディナーなのか時間帯によっても違いますし、美容室であれば七五三や卒業式、入学式のシーズンなど季節によっても違います。
・座席数
そのお店にどれだけの席数があるかです。
カウンター席、4人席など種類によっても客単価が変わる場合があれば、それも売上根拠に含めます。
・回転数
同じ席を何人の人が入れ替わりで座るかを表します。
例えばランチ3時間、11時に1人、12時半に1人座ると、回転数は「2」になります。
もし、4人席に2人の客が座った場合は0.5です。
席数54のお店があっとして、満席になって初めて回転数「1」です。
基本、4人席でも4人座るとは限らず、カウンター席でも1つ間を空けて座ることもあるため、満席になることは少ないと考えられます。
回転数は、平日、休日、季節によっても変化します。
[イタリア料理店の売上根拠例]
お店の前提
・ランチ…11時〜13時/ディナー…18時〜24時
・客単価…ランチ 900円 /ディナー1,500円
・座席数…54席(全てテーブル席)
・回転数…ランチ0.5回転/ディナー…0.6回転
・ランチの1日の売上高…900円×54席×0.5=24,300円
・ディナーの1日の売上高…1500円×54席×0.6=48,600円
イタリア料理店の1日の売上高…72,900円/日商
1ヶ月の稼働日数25日だった場合…1,822,500円/月商
上記の例の場合、一カ月の売上高は約182万円となりました。
ステップ4で計算した最低限必要な売上高が142万円でしたので、上記の売上根拠はクリアです。
もし、最低限必要な売上高をクリアできなかった場合の考え方は、このあとお話しします。
5-2.[現金商売の場合]標準月、閑散月、繁忙月の3つに分けて作成
上記では、1ヶ月の売上高を計算しました。
しかし、季節などの要因によっては、あまりお客様が来ない時期もあれば、反対にとても忙しくなる月もあると思います。
閑散月や繁忙月があるのに、1年間同じ売上高を12ヶ月分並べるのは、売上根拠としては現実味の薄い計画書となります。
ですから、季節などによって閑散月や繁忙月がある場合には、3つの売上根拠を作成します。
[イタリア料理店の3つの売上根拠例]
・客単価…ランチ 900円 ディナー1500円
・座席数…54席(全てテーブル席)
・標準月…回転数→ランチ0.5回転 ディナー0.6回転【月商182万円】
・閑散月…回転数→ランチ0.3回転 ディナー0.4回転【月商117万円】
・繁忙期…回転数→ランチ0.7回転 ディナー0.8回転 【月商247万円】
するとわかるとおり、閑散月には最低限必要な売上高である142万円を下回ってしまいました。
必ずしも、下回ってしまう月があることが計画書として悪いわけではありません。
標準月を12ヶ月並べただけの、現実味の薄い計画書よりも、閑散月を前もって把握することで、あらかじめ資金繰りの計画を立てることが可能となるからです。
ただし、通期で利益を出すことが大前提です。
最低限必要な売上高をクリアできなかった場合の考え方は、このあとお話しします。
5-3.[実店舗を持つ商売の場合]商圏の人口×入店の割合×客単価
飲食店や美容室、整骨院などの現金商売やサービス業、小売業などの実店舗を持つ商売の場合は、以下のような式で売上根拠を求めます。
・商圏の人口×入店の割合×客単価
実店舗を持つ商売の場合は、売上の上限が決まってしまいます。
例えば、1日に100人に売り上げないと最低限必要な売上高をクリアできないとしても、そもそもその店の前を1日に10人しか通らないようでは話になりません。
実店舗を持つ商売の商圏の人口や入店の割合の考え方は以下の通りです。
[商圏の人口]
・駅前徒歩圏内…最寄駅の乗降客数と周辺の地域住民
・特定の学校や企業周辺…学校、企業など特定のものの近くは、そこに通う人の人数
・ランドマーク周辺…特定のランドマークの集客数
・周りに集客を見込めるものが何もない場合…商圏を広げるためには自前の駐輪場や駐輪場の契約などが必要です
・その他、企業・個人、昼・夜間人口、世帯数、所得、性別、年齢などを具体的に把握する必要があります。
[入店の割合]
1番簡単なのは、近隣の競合他社、もしくはそれに類似しているお店をリサーチすることです。
入店の割合はマーケティング方法によっても大きく変わるものですから、目標にしているお店があれば参考にします。
1回の来店で終わらないよう、リピート、口コミされるような工夫も大切です。
[生花店の例]
・駅徒歩5分、駐車場なし
・近隣はファミリー層の多い住宅街
・商圏は駅を利用する人と近隣住民
・母の日、年末年始、年度末年度始が繁忙期
・ 繁忙期以外は、普段使いできるようなワンコインアレンジメントフラワーが主力商品
・最寄駅の1日の乗降客数 10000人+近隣住民 3000人 × 0.03× 客単価1000円 = 月商39万円
5-4.[その他商売の場合]商品別・販売方法ごとに売上根拠を考える
その他の商売の場合は、商品別や販売方法ごとに毎月の売上根拠を考えます。
基本的には、売上が毎月一定の商売の方が少ないものです。
例えばA商品は8月のみ大きな売上が上がり、B商品は3ヶ月に1回大きな売上が上がるなど、売上には波があります。
大きな売上入金がある月は良いですが、問題は入金のない月です。
入金の少ない月は、最低限必要な売上高をクリアすることができない可能性があります。
そういった場合に資金繰りをどうするのか、あらかじめ計画を立てるのが収支計画書の目的の1つとなります。
最低限必要な売上高をクリアできない場合にどうするかはこのあとお話しします。
6.[利益計画作成ステップ6]実際に利益計画書に落とし込む
ステップ5までできたら、実際に利益計画書に数字を落とし込んでみましょう。
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今回は飲食業の利益計画ですので、仕入支払は変動費30%のため、営業収入×30%の式が挿入されています。
水道光熱費も、売上の6%で計算されています。
減価償却費の金額がわかる場合には記入します。(ここでは売上の3%で計算しています)
金融機関からの借入金は、支払利息だけ計上します。
借入金の元金の返済金はここでは計上しません。
なぜなら、元金の返済金は「費用」ではなく「負債」になるからです。
・費用…事業活動に必要な支払い。簡単にいうと経費。変動費と固定費がある
・負債…会社の借金。借入金や買掛金などがある
つまり、借入金は負債であり、負債は費用ではないため、ここでは計上しません。
売上は、軌道にのるまでの間は、売上根拠の「閑散期」である数字を入力しています。
利益としてはマイナスになっていますが、初月からいきなり黒字の利益計画を作成するよりも、現実味のある数字となっています。
今回の計画書では、起業から半年後に売上が軌道にのり、売上根拠の「通常期」の数字が入力されています。
7.[利益計画作成ステップ7]最低限必要な売上高をクリアできない場合の計画の見直し方
ステップ6までで利益計画を作成し、最低限必要な売上高をクリアできなかった場合、もしくはどうしても赤字になってしまう場合は、計画の見直しをしなければなりません。
また、クリアできた場合にも、それが本当に実現可能な数値であるかどうかを精査するためにも、ステップ7は重要になります。
以下のような手順で見直しをします。
7-1.業界における黒字企業の黄金比率と見比べてみる
まずは自分の立てた数字が、業界における黒字企業の黄金比率と見比べてみます。
具体的には[利益計画作成ステップ3]自分の業界の粗利率を探し出す、で使用した表を参考にします。
もし自分の業界がなければ、ネットなどを利用してできる限り調べてみましょう。
自分の立てた計画の固定費や変動費が、業界標準と比べて大きく異なる箇所がある場合は、そこが計画を狂わせている原因の可能性があります。
7-2.変動費、固定費を見直す
次にやることは、変動費と固定費の見直しです。
売上を増やすことは簡単ではありませんから、まずは削れるところを削ること考えます。
7-2-1.変動費の見直しのポイント
変動費の見直しのポイントは、材料費と外注費、仕入れです。
材料費の見直しのポイント
・使用量を減らす/単価を下げる
外注費の見直しのポイント
・外注しないで社内で作ることも検討/外注単価を下げる
仕入れ
仕入れ量が適正かどうかを見直す/仕入単価を下げる
うち、共通していることは単価を下げることです。
取引先との交渉が可能かどうか、もしくは取引先の変更を検討するなど、単価を下げられるかを考えます。
あとは量を減らすことですが、変動費は売上と比例していますので、量を減らしすぎると売り時になってモノがない場合もありますなら、慎重に計画を立てましょう。
7-2-2.固定費の見直しのポイント
固定費の見直しのポイントは、人件費、家賃、販売費です。
人件費の見直しのポイント
・人数が適正か見直す/支給額が適正か見直す/残業、休日出勤を見直す
その他の見直しのポイント
・家賃の見直し…坪数、坪単価が適正かどうかを見直す
・販売費の見直し…費用対効果はあっているか/相見積もり、まとめ発注を検討
・その他見直し…ガソリン代など交通費、消耗品、水道光熱費、融資の利息支払い
固定費は、売上とは関係なく毎月支払わなければいけないお金ですから、ここを削ることができればかなりの改善になります。
人件費の適正額については、求人広告などと見比べて判断します。
家賃についても、近隣の店舗と見比べて高すぎないかを判断します。
ただ、固定費は下げすぎるのもよくありません。
人件費を下げると社員のモチベーションの維持や良い人材の採用に響きますし、家賃を下げるといい物件には契約できなくなります。
販促費を下げると売上に直接的に響く可能性が高くなります。
7-1でお話ししたように、まずは業界標準と比較しながら、適切な額に設定することもひとつの手段です。
しかし、矛盾したことを言うようですが「業界標準と見比べて、高すぎず低すぎずが絶対正解」とも言い切れません。
見直し方としては、売上高を「100」としたときに、何かの比率を上げたいのであれば、何かの比率を下げなければいけない、ということを覚えておいてください。
どの比率をどれくらい上げ下げしたらすればいいのかは、その会社の戦略や資本力、世情などさまざまな要因がありますので、一概には言えないところが難しいところでしょう。
しかし、売上が大きく見込めるからといって、固定費を高くするのはリスクが大きいですので避けたほうが無難です。
8.[利益計画作成ステップ8]番外編
ここからは、利益計画を作るにあっての番外編です。
上記7までの収支計画書の作成がきっちり作り込まれていることが1番大切です。
8-1.売上根拠を考えるときには、見知らぬ人より見知った人から考える
売上根拠を考えるときには、まずは見知らぬ人より見知った人からどれだけ売上があげられるかを考えましょう。
・地上戦営業…人脈・ネットワークなど、見知った人への営業
・空中戦営業…WEB・チラシなど知らない人への営業
社長1人、もしくは小規模で起業する場合は、知らない人をターゲットとする空中戦はリスクが高いと言えます。
なぜなら、空中戦は地上戦に比べてコストが高く、売上見込みが立たないからです。
もちろん地上戦と空中戦を同時進行で進めるのは問題ありませんが、初めから空中戦のみで売上見込みを立てるのは非常に危険と言えます。
成功している経営者は、自分の人脈をとても大切にしていて、まずはそこからの売上に注力しているものです。
まず最初は、より確実に実績を出せる地上戦営業に力を入れましょう。
8-2.ビジネスモデルは「アッパーニッチ」を狙い、「薄利多売」はできるだけ避ける
ビジネスモデルを考える時は「アッパーニッチ」を狙い、「薄利多売」はできるだけ避けるのが成功のコツです。
・アッパーニッチ…高級、高付加価値のスモールマーケットのこと。反対用語に「ロアマス」があり、低価格帯のBIGマーケットのことを指します。
・薄利多売(はくりたばい)…一つの商品の利益を少なくして大量に売り、全体として利益が上がるようにすること。
薄利多売は、資本力のある大手企業がとるべき商法であり、資本力のない小規模企業が行うと、すぐに資金繰りに困ることが予想されます。
しかし、高級、高付加価値のスモールマーケットは、購買者も少ないため、マーケティング方法に工夫が必要です。
8-3.継続的に利益を出し続けられるビジネスモデルを考える
ビジネスモデルを考える時には、「継続的に利益を出し続けられるかどうか」を考える必要があります。
モデルを考えるにあたって、まず大切なのは「粗利益」です。
経営者によくありがちなのが「売上さえ上がっていればなんとかなるだろう」という考え方です。
しかし本当に経営者が考えるべきは、売上よりも「毎月の粗利益がどの程度残るか」を常に意識することです。
具体的には、先ほどお話しした黒字企業の粗利益率をクリアできることが目標です。
なぜ粗利益が大事なのかというと、粗利益からすべての経費支払いが行われるからです。
つまり、粗利益の金額以上に経費を使わなければ毎月少しずつでもお金は会社に残ります。
逆に粗利益が少ないビジネスモデルは、それだけ資金繰りリスクが高いのです。
ビジネスモデルを考えるときには、粗利益が残りやすい、変動費(仕入れ)支払いのできるだけ少ないビジネスモデルを考えるのが良いでしょう。
単発ではなく、継続的に利益を出し続けられるビジネスモデルであることはとても重要な要素です。
なぜなら、その利益を次のビジネスに投資し、事業を大きくしていくからです。
そして利益の出ていない会社には、金融機関は融資をしてくれません。
継続的に利益を出し続けられるビジネスモデルを考えましょう。
8-4.自社だけのオリジナリティを出す
ステップ7までで、最低限必要な売上高をクリアし、業界標準と見比べて問題ない利益計画が作成できたら、自社だけのオリジナリティを出してもいいでしょう。
もちろん、今のままでも充分に黒字を目指せる手堅い利益計画ではあります。
しかし、さらに一歩抜き出るために、この利益計画をベースとして、数字の見直しをすることを考えても良いでしょう。
例えば、とても良い立地の店舗を格安で借りられる場合は、標準よりも20%高い材料費を使って「一等地で一流料理を格安で食べられる料理店」というオリジナリティを出すこともできます。
これは、標準よりも低い家賃を、材料費に回している例です。
ここでの注意点は、いきなり標準から外れた計画を立てるのではなく、ベースをしっかりと作り込んだ上で、オリジナリティを出しているという点です。
いきなり突飛な計画を立てるのは、それはオリジナリティではなく、無謀な計画に過ぎません。
事業のオリジナリティとは、ベースがきちんとあった上で、そこからアレンジして作り込んだものをいいます。
ステップ7までの利益計画が実現可能なものに仕上がった上でオリジナリティを出しましょう。
(参考)利益計画書と損益計算書、収支計算書の違い
今回は「利益計画書」の作成についてお話ししましたが、それとよく似たものに「損益計算書」と「収支計算書」があります。
見た目はよく似ていますが、じつは全く役割の違うものです。
違いは以下になります。
・利益計画書…「将来の」売上高と費用、利益の目標について計画を立てたもの。あくまで将来の予想数値。
・損益計算書…売上高と費用、利益の実績値。実際に支払った領収書など過去のデータをもとに作成される
・収支計算書…「現金ベース」で売上高、費用、利益の目標数値を表したもの。利益計画書、損益計算書は「発生ベース」で数値が計上される。
まだ実績のない創業期に、金融機関に融資をお願いする場合に使用する「事業計画書」とは、簡単にいうとこの「利益計画書」と「収支計算書」のことです。
利益計画書は「発生ベース」で計画を立てますが、収支計算書は「現金ベース」で計上します。
例えば、3月にたった売上が4月に入金される場合、利益計画書では3月に計上し、収支計算書では4月に計上します。
経費の支払いも同様に、3月にクレジットカード払いで購入したものが4月に引き落としになる場合、利益計画書では3月に計上し、収支計算書では4月に計上します。
税金の計算は通常、発生ベース(これを発生主義といいます)で行われるため、帳簿や決算書のひとつである損益計算書や、利益計画書は発生ベースで計上しています。
これとは違い、収支計算書は現金ベースで計上するため、実際の現金がいくら手元に残るのか、今月の支払いがいくらになるのかを把握する役目があります。
経営者はこの3つの表を使いこなせるようになりましょう。
最後に
いかがでしたでしょうか。
利益計画は、金融機関からの融資を検討している場合に作成することが多いですが、成功している経営者であれば、融資とは関係なく必ず作成しているものです。
利益計画を作成し、3つの利益を常に考えることが、経営者の最も大切な役割のひとつと言ってもよいでしょう。
自分ひとりで作成するのが困難な場合は、税理士などに相談してみてもよいでしょう。