あなたは今、財務(ざいむ)とは何かについてお調べのことでしょう。
経営者のお金にまつわる言葉には「財務」の他に「経理」があります。
中小企業の経営者の多くが、この2つの違いをあいまいにしている、もしくは軽視しているのが現状です。
中小企業の経営者が、財務を正しく理解し、積極的に活用できるようになると、いい会社の基礎ができあがります。
ここでは、経営者に必要な財務とは何かについて、わかりやすくお話ししています。
ぜひ参考にしてください。
もくじ
0.中小企業の経営者が財務を押さえると「いい会社」の基礎が作れます
1.「経理」と「財務」の違い
2.押さえたい財務(その1)資金繰り
3.押さえたい財務(その2)予算管理 ~資金ショートを防ぐ~
4.押さえたい財務(その3)資金調達
4-1.資金調達の調達先
4-2.資金調達の理由
5.押さえたい財務(その4)余裕資金の計画
0.中小企業の経営者が財務を押さえると「いい会社」の基礎が作れます
私は、中小企業の経営者における問題点のひとつに「財務の必要性への理解が不十分であること」があげられると考えています。
売上がたつようになってからの経営者が、最も陥りやすい問題点として「売上さえあがっていればなんとかなるだろう」と考え、財務をおろそかにしがちな点があげられます。
これは本当に危険な考え方で、売上が上がっていても、会社が倒産することは充分にありえます。
その原因は
・お金の流れを把握していない
・身の丈を越えた、大きすぎる案件を受注してしまう
・損益計算書や貸借対照表をうまく読み解けていない
・必要な資金調達ができていない
・余裕資金の投資先の計画を立てていない
などがあげられ、これらは財務を正しく理解することですべて解決することが可能です。
せっかく売上が伸びているのに倒産の危機に瀕してしまう大きな要因のひとつは、財務管理の不十分さなのです。
まず中小企業の経営者には、財務の必要性を充分にわかってもらいたい、というのが私の考えです。
次からは、中小企業の財務を攻略するために必要なことについてお話しします。
1.「経理」と「財務」の違い
まずは財務を攻略する前に、経理と財務の違いを理解する必要があります。
なぜなら財務は、正しい経理なくしては成り立たないからです。
違いは以下のようになります。
・経理…日々の会計取引を記帳し、帳簿にまとめることで損益計算書や貸借対照表などを作成する一連の業務のこと。具体的には、伝票の起票、会計ソフトへの入力、帳簿の作成、得意先への請求、取引先への支払い、決算書作成、税金の申告など。
・財務…経理のまとめた帳簿や決算書をもとに、会社の資金繰りや予算管理、資金調達(銀行融資)、余裕資金の計画を行うこと。
経理は、会社から出ていくお金や、残るお金を算出します。
財務は、今後の事業活動に必要なお金の計画を立て、足りなければ資金調達をし、余裕資金があればさらなる投資先を検討します。
つまり、経理は過去の活動を元にした「過去会計」、財務は未来を予測する「未来会計」と言えます。
過去会計なくして未来会計はありえませんが、未来会計なくしていい会社経営もありえないのです。
2.押さえたい財務(その1)資金繰り
中小企業の経営者が押さえたい財務その1は「資金繰り」です。
資金繰り(しきんぐり)とは、予定される支払いと、売上代金の回収のタイミングを見計らい、実際のキャッシュ(手持ち現金)の動きを把握することを言います。
これを表にしたものが「資金繰り表」です。
経営者は資金繰りを把握しておかないと、帳簿上は黒字なのに、手持ちの現金が足りなくて取引先への支払いができず、倒産してしまうこともあります。
これが黒字倒産です。
資金繰りを良くするポイントは6つあります。
・売掛金の資金回収を早める
・買掛金の支払いを遅くしてもらう
・過剰在庫を処分する、仕入れを減らす
・人件費を削減する、残業代の見直し
・借入金の返済条件の見直し
・金融機関から借入れする
上記の点を見直すことで資金繰りの改善がはかれますが、どれも慎重に行う必要があります。
売掛金や買掛金のサイクルは相手先との関係性もありますし、在庫を極端に減らせば売り時に商品がないということもあります。
また、人件費の削減は、社員のモチベーション低下につながりますし、借入金の返済条件の見直しや新規の借入れも、金融機関との関係性が重要になってきます。
このあとの話にもつながりますが、きちんとした予算管理や資金調達計画などと一緒に慎重に考える必要があるでしょう。
3.押さえたい財務(その2)予算管理 ~資金ショートを防ぐ~
中小企業の経営者が押さえたい財務その2は「予算管理」です。
予算管理とは、まず売上や必要経費などの予算計画を立て、実績を把握・分析し、この分析を踏まえて、今後の戦略や活動の軌道修正をする一連の活動を言います。
なぜ予算管理が必要かというと、経営における突然の資金ショートを防ぐためです。
毎月一定額の決まった売上が、確実に入ってくる会社ならあまり問題はありません。
しかし、多くの会社はシーズンにより売上の増減があり、繁忙期など大きな売上が立つときもあれば、そうでない時もあるなど、売上の入金額が変動することが多いかと思います。
もし、2ヶ月後に大きな売上の入金があるとしても、今月の経費や仕入れ代金が支払えなければ資金ショートしてしまうことになります。
そういったことが起こらないよう、経営者は予算管理をもとに、先々の支払いが滞らないよう、借入れを検討するなど、あらかじめ先手を打っておく必要があります。
また、予算管理上で利益が出ることが予測できれば、さらなる投資先をあらかじめ検討するなど、積極的な事業活動が行えます。
予算管理とは、
・先々の資金ショートを先回りして防ぐ危機管理
・積極的な事業活動
という2つの意味合いがあります。
しかし実際には、予算通りに事業が進むことはまれですから、こまめに実績を把握・分析し、この分析を踏まえて、今後の戦略や活動の軌道修正をすることも大切です。
4.押さえたい財務(その3)資金調達
中小企業の経営者が押さえたい財務その3は「資金調達」です。
資金調達をするときに重要なのは、「調達先」と「調達理由」です。
資金調達の調達先には以下のものがあります。
・親や親戚、友人や知人
・日本政策金融公庫
・メガバンク(大手銀行)
・地方銀行
・信用組合・信用金庫
・助成金・補助金
・ベンチャーキャピタル
・個人投資家
・ノンバンク(消費者金融・信販会社)
資金調達が必要な理由には3種類あります。
・運転資金の補充
・新たな事業を興すため(設備投資)
・金融機関との関係性づくり
以下からもう少し詳しく見ていきましょう。
4-1.資金調達の調達先
まずは先ほどあげた資金調達の調達先についてお話しします。
・親や親戚、友人や知人
資金調達先として最も簡単なのは、親や親戚、友人知人だと思います。
調達方法も、譲り受けたり、無利息で借りたり、利子をつけて借りるなど様々です。
中には、お金を譲り受けるかわりとして、会社の役員として迎え入れる場合もあるでしょう。
しかし、これは今後「いい会社」を作りたいと思うのであれば非常に危険な方法です。
株主が2人以上いる場合、途中から意見が合わなくなって、株主の一人である友人が自分を解任して会社を乗っ取ってしまう、ということも起こりえます。
これは決して大企業だけに限らず、株主が数人だけしかいない会社でも普通にありえる話です。
友人を株主に迎え入れる場合は、慎重に行うようにしましょう。
また、借り受ける場合は、きちんと契約書を作成するなどしましょう。
・日本政策金融公庫
次に中小企業の経営者が資金調達しやすい調達先に、日本政策金融公庫があります。
特に「創業融資」については、中小企業がまず相談すべきは日本政策金融公庫です。
公庫には「無担保、無保証人」の融資制度として「第3者保証人等を不要とする融資」があります。
一般の金融機関ではよほど実績がよくない限り「無担保、無保証人」では借入はできないため、中小企業の強い味方といえます。
ただ、中小企業が1番借りやすい金融機関であるとはいえ、融資を断られることがないわけではありません。
以下のような場合は、公庫でも融資を断られる原因となります。
・自己資金が要件に足りない
・通帳の履歴がなく「見せ金」の可能性
・過去に延滞など「事故歴」がある
・サラ金などからの借入れがある
・(創業でない場合)業績が著しく悪い
・面談や書類での嘘がバレた
・そのそも収支計画が成り立っていない
上記のような理由で断られた場合は、融資の再申請をしたとしても、融資を通すのは難しくなります。
しかし、以下のような理由の場合は、もう一度きちんと見直せば再申請が通る可能性があります。
・収支計画書の作り込みが現実的でない(売上根拠が不十分、経費の見込みが甘いなど)
・融資の申込金額が必要以上に大きい
これは公庫だけでなく、すべての金融機関に言えることですが、金融機関はあなたの会社の事業が今後どれくらい成長するかを見たいわけではなく「貸したお金を利息をつけて毎月きちんと返してもらえるか」を確認したいのです。
つまり、過大に売上の数字を釣り上げて見栄えをよくするよりも、現実的で確実な収支計画書を作成して提出する方が融資は通りやすいのです。
日本政策金融公庫の融資は一度断られると、その後6ヶ月間は申し込みができなくなります。
金融機関との信頼関係を崩さないようにしましょう。
・メガバンク・地銀・信金・信組
公庫とともに中小企業の経営者が資金調達を考える調達先に「メガバンク」「地銀」「信金・信組」があります。
考え方は以下の通りです。
・メガバンク…年商10億円規模
・地銀…年商5億円規模(1~5億円)
・信金・信組…年商1億円規模(~1億円)
中小企業の経営者が融資を考える際に最も大切なのは「今の会社のステージにあった金融機関を選ぶこと」です。
メガバンクは社外的な見栄えも良いですし、なにより融資の金利が安く、メインバンクとしたい気持ちはわかります。
しかし、中小企業の借入先としてはハードルが高く、融資を断られる可能性が非常に高いのが事実です。
融資先の選択でここを間違えてしまうと、資金調達がうまくいかなくて経営が行き詰まる結果となってしまいます。
今の会社のステージにきちんとあった金融機関選びがとても重要です。
・助成金・補助金
中小企業の経営者が資金調達として考える調達先に「助成金」「補助金」があります。
助成金や補助金は、融資とは異なり、返済の必要がない資金ですので、とても魅力的な資金調達先といえます。
助成金・補助金とは以下のようなものです。
・助成金…大きく分けて、厚生労働省が管轄する「雇用関係」と、経済産業省が管轄する「研究開発系」の2種類があります。代表的なものに、キャリアアップ助成金など。
・補助金…国のさまざまな政策ごとに、いろいろなジャンルで募集されているもの。中小企業庁などが管轄している。代表的なものに、創業補助金や、ものづくり補助金など。
助成金・補助金の最大のメリットは、「返済の必要がない」ということです。
しかしデメリットとしては「お金を受け取るまでの期間が長い、すぐにもらえない」ということです。
どんなに短くても受け取るまでに3ヶ月、長ければ2年近くかかるものもあります。
しかも最初の申請が通ったあとも、途中経過の報告義務があるなど、事務作業がかなり負担となります。
助成金・補助金にそれだけの時間をかけるくらいなら、本業に専念する方がよいとも思います。
創業資金や運転資金の足しに、という考えはやめて、もらえたらラッキーくらいに考えておくのがよいでしょう。
しかし、返済の必要がない資金というのは、中小企業の経営者にとって魅力的であることに変わりはありません。
もし助成金・補助金を検討する場合には、手数料を支払ってでも社労士など専門家に相談することをオススメします。
・ベンチャーキャピタル
中小企業の経営者が資金調達として考える調達方法に「ベンチャーキャピタル」があります。
ベンチャーキャピタルとは、将来有望なベンチャー企業に対し、投資家がファンドを作り、そこから資金を支援する方法です。
(1)投資家から資金を集めて「ファンド」が作られる
(2)ファンドからベンチャー企業に投資が行われ、ベンチャー企業の株式を取得する
(3)ベンチャー企業の株式上場やM&Aを機に株式を売却する
(4)投資家はキャピタルゲインを得る
つまり、将来的に株式上場を目指す中小企業の資金調達手段となります。
ここでのポイントは、ベンチャーキャピタルの目的とは「上場益」であるということです。
ベンチャーキャピタルを受け入れたからには、上場を目指さざるを得ません。
外部機関にも議決権が発生するということと、上場準備コストや上場後の維持コストも含めて、それらを回収できるほどのリターンが得られるかを慎重に考える必要があります。
日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカではアップル、グーグル、フェイスブックなど21世紀を代表する大企業が、ベンチャーキャピタルを利用して資金調達をしています。
・個人投資家
中小企業の経営者が資金調達として考えられる調達先に「個人投資家」があります。
個人投資家もベンチャーキャピタルと同じで、将来有望なベンチャー企業に対し資金を支援します。
ベンチャーキャピタルとの違いは、ファンドから投資をするのに対して、個人投資家は自己資金を直接投資します。
日本では、個人投資家による直接的な投資はかなり少ないといえます。
平成25年3月の野村総合研究所「個人投資家によるベンチャー企業等への投資活動の実態に関する調査」では、企業と知り合ったきっかけとして、「同僚・知人・親族として知り合いであった」が 65.7%で、もともと知り合いである人の企業に投資を行っているケースが多く、第三者やメディア等を媒介しているケースが少ないのが現状です。
・ノンバンク(消費者金融・信販会社)
中小企業の経営者が資金調達として考えられる調達先に「ノンバンク(消費者金融・信販会社)」があります。
これは、最後の手段としたい調達先になるでしょう。
消費者金融などから借り入れ履歴があると、他の金融機関では融資が下りない場合がありますので、慎重に行うようにしてください。
4-2.資金調達の理由
資金調達の理由について、ひとつずつ見ていきましょう。
・運転資金の補充
一番多い理由が「日々の運転資金が足りない」という理由です。
しかし、この理由による金融機関からの融資は非常に難しいのが現状です。
なぜなら、金融機関は「お金があるところにお金を貸したい」からです。
矛盾しているかもしれませんが、金融機関はお金がないところにお金を貸して、返してもらえなかった場合のリスクを一番嫌がります。
ですので、資金調達はお金に困ってから行うのではなく「お金がある時に行うこと」が正解なのです。
・新たな事業を興すため(設備投資)
2つ目の理由に「新たな事業を興すため」というのがあります。
一見、前向きな理由に思えますが、この場合も金融機関は「お金を回収できるか否か」をポイントにします。
現実味の高いしっかりとした事業計画書をもとに資金調達を行いましょう。
・金融機関との関係性づくり
3つ目の理由は「金融機関との関係性づくり」のためです。
これが一番、お金に困っていない資金調達の方法です。
金融機関は、お金に困ってからではお金を貸してはくれません。
ですから、いつ融資を申し込んでも大丈夫なように、お金に困ってなくても金融機関から一定のお金を借りて、毎月きちんと利息とともに返していく、という「実績づくり」が大切です。
無借金経営はとても立派ですし、経営者であれば誰もが目指したいところではありますが、いつどんな理由で資金調達が必要になるかは誰にもわかりません。
利息を払い続けるのはもったいないと思いますが、いざという時のためのリスク回避を考えておくのも経営者の役目です。
5.押さえたい財務(その4)余裕資金の計画
中小企業の経営者が押さえたい財務その4は「余裕資金の計画」です。
中小企業の経営者の陥りやすい問題点のひとつに、余裕資金ができたときに「ただなんとなく運転資金として使ってしまう」「急激な売上を求めてお金を使ってしまう」ことがあげられます。
余裕資金ができた時に最も大切なのは「次の利益を生み出すための堅実な計画」です。
例えば以下のようなものがあげられます。
・人を雇う資金にする
・設備投資に使う
・仕入を増やしたり、新しい商材を購入する
・福利厚生を充実させる
・資産運用を考える
これらをどれにどれくらい投資するのかは、その会社が今後5年間にどのような経営計画を立てるかで大きく変わってきます。
ただ、中小企業にとって「急激な売上の増加=成長」ではありません。
たとえ一時、売上が急激に伸びたしても、翌期や翌々期にその反動が出ては意味がありません。
その会社のステージにあった成長率を考えるのが、中小企業の経営者の役割といえます。
余裕資金が生まれた時の「お金の使い方」は、経営者に課せられた大事な判断力となります。
最後に
以上がいい会社を作る社長が必ず押さえている財務のポイントとなります。
どうしても中小企業の経営者は、売上至上主義で、財務をおろそかにしてしまいがちです。
しかし、いい会社を作っている経営者は、財務の重要性を理解し、それを正しく活用しています。
ぜひ、上記を参考にしてください。